※注意
〇このお話は、先日私が行った九州旅行を元に作ったお話です。
妄想要素がたっぷり入っているので、ふわっとお楽しみください。
〇ノリが中高生のようですが、一応、いろいろありますので登場人物3人は成人済のオトナ、ということになっています。
〇もちろんフィクションがいっぱいで、捏造している部分もたくさんあります。
僕たち3人で会おう、ということになったのは、僕がまとまった休みをもぎ取れたからだ。
春の異動で僕の部署も人が変わり、難しい人が何人か入ってきて、半年経った頃にはへとへとになってしまった。
「温泉でのんびりしたーい!」という、心の叫びを聞いたのが、トヨくんとマサくんだった。
僕たちは、アニメ「こぶたものがたり」のファンでSNSでつながっていた。
毎日、たわいのないやり取りをしていて、僕の叫びに反応した2人が「九州へおいでよ。温泉もあるよ!」と誘ってくれた。
他のフォロワーさんと温泉に行ったときの写真がタイムラインに流れてきていたことも思い出し、僕は休みを九州旅行にあてることにした。
初日の夕方まで単独行動ができたので、憧れの吉野ケ里遺跡を見に行った。
遺物を見るたびに「うをー!卑弥呼さまーーーー!!」と心の中で叫んでいた。
そして、ここはやたらと広い。
木陰がない道をてくてくと3時間も歩き回り、へろへろになった。
夕方、タカくんが車で僕を迎えに来てくれ、串焼き屋さんに連れて行ってくれた。
初対面の僕たちは、ちょっぴりぎくしゃくしていた。
タカくんは「ビール飲んでもいいよ」と優しく言ってくれたけど、炎天下の遺跡回りのあとだったので、なにかあってはいけない、と思い、遠慮した。
タカくんは僕にとても気を遣ってくれた。
宿も「うちでよかったら泊まりなよ」と言ってくれた。
僕が自分ちでやっていそうなことがタカくんちでもできるように、パソコンを準備し、「こぶたものがたり」の主人公のキャラのラクガキがうまくなりたい、とずっと言っていたのでクロッキー帳も買っておいてくれた。
タカくんちにはわんこがたくさんいた。
子犬が産まれたことは知っていて、1匹連れてきてくれた。
かわいくてなでていたけど、すぐにキューキューと不安そうに鳴きだした。
きっとお母さんのところに帰りたいんだと思って、タカくんに言うと戻しにいってくれた。
この日の夜は、タカくんと一緒の部屋に寝た。
次の日は、佐賀の唐津に連れて行ってくれることになっていた。
トヨくんをピックアップして、やっと3人で会えた。
唐津に行くことになったのは「こぶたものがたり」の原作者の出身地で、このアニメ作品を使ってふるさとを盛り上げようとイベントが幾つか開催されていたからだ。
僕たちは「こぶた」の魅力について大いに語り、自分たちが妄想した二次創作についても話をした。
天気は悪かったけど、傘の出番はなかった。
夜はタカくんが、うまいもつ鍋屋を予約しておいてくれた。
人生2回目のもつ鍋を食べる。
そう聞くと、2人は期待に満ちたまなざしで僕を見ていた。
この日もタカくんちに3人で行った。
トヨくんは子犬にめろめろになった。
3人でぎゅうぎゅうになりながら、寝た。
3日目の朝、タカくんの同居人さんが作ってくれていたティラミスで朝ごはん。
ひどいことに、この大きなティラミスにそれぞれが穴をあけるように食べてしまった。
トヨくんと僕は、申し訳なく思った。
朝食後、僕たちは別府に向かっていった。
別府のそばのトヨくんちに荷物を置くと、地獄蒸しでうまうま蒸し料理を食べ、温泉に入った。
久しぶりの温泉は気持ちよかった。
夜、トヨくんが和食のお店を予約してくれていた。
このときはタクシーを使ったので、3人ともビールやお酒を飲んだ。
いい気分になってトヨくんちに泊まった。
旅行最終日は「砂風呂」からスタートした。
2回目の砂風呂だったけど、すっかり忘れていて、砂の熱さと重さに目が回りそうだった。
しばらくして、僕が新幹線に乗る博多に向かうことにした。
途中、恋人の聖地のひとつの「別府湾サービスエリア」に行った。
3人はわいわいと楽しくやっていたけど、どこかなじめない部分があった。
それは、それぞれが「あとの二人と仲良くしなよ!」と押し付けあいこしていたからだ。
タカくんは、僕とトヨくんをくっつけようとする。
トヨくんは、僕とタカくんをくっつけようとする。
もちろん僕は、タカくんとトヨくんが仲良くなるといいな、と思う。
2人とも僕のことが好きだ、と態度のどこかで言ってくれていた。
それはそうだと思う。
でも、そうじゃないんだ。
タカくんはティラミスを作ってくれた「同居人」と呼んでいる人とコイビト同士だ。
他の人がいると素直になれなくて「ほっといていいよ!」と言ってるけど、ほんとは大好きで頼りにしている。
時々、同居人さんがLINEを入れてくるのも、かわいかった。
2人、らぶらぶじゃん。
トヨくんはスパダリのカッコいい弟と住んでいた。
噂は聞いていたけど、ちょっとだけお会いしただけでも、そのスパダリぶりにくらくらした。
弟大好きのブラコンだと思う。
そして、トヨくんには好きな人がいる、と思う。
デリケートなことなので聞かなかったけど、きっとぴんくのカエルと旅をしているあの人のことが好きなんだ。
「キリオを食べちゃえ!」と2人は言ってたけど、本気じゃなかった。
だってそれぞれ好きな人がいるんだもん。
食べたいのも、食べられたいのも僕じゃない。
ほんと、素直になったらいいのに。
「好き」って言いたいのは僕じゃないでしょ。
甘えたいのは僕じゃないでしょ。
2人は「仕方ないなぁ、キリオは」と言いながら、僕のお世話をしてくれたけど、このことに関しては僕もコドモじゃないからね!
「恋人の聖地」で見たハートの鍵を思い出す。
いいな、好きな人がいるって。
僕も恋愛をしなかったわけじゃない。
でも今特別な人がいない、ということはうまくいかなかった、というわけで。
どっかにいるのかなぁ。
溜息と共に晴れ上がった空を見る。
このまま出会えないままかなぁ。
そんなことを考えてしまうと、強烈に寂しくなる。
「キリオ、なにぼんやりしてるの。行くよ!」
声をかけられ、僕は返事をし、タカくんが運転してくれる車に乗り込んだ。
最後はずっと食べたい、と言っていた博多の「かろのうろん」でうどんを食べた。
僕は2回目。
出汁のきいたやさしいうどんを食べ終わったら、旅の終わりの時間が来た。
博多駅まで送ってもらい、僕たち3人はそれぞれに別れた。
離れる前にハグをした。
タカくん、同居人さんにかわいくない態度取らないでよ。
トヨくん、好きって気持ち、ずっと持っててよ。
祈るように2人を抱きしめると、僕も新幹線の手続きをした。
帰ってからも相変わらず2人は「キリオを食ってやる!」とSNSで言ってるけど、僕は「はいはい」と聞いている。
また会おうね、タカくん、トヨくん。